
プロレス通信簿
スペシャルシングルマッチ/
オカダ・カズチカvsバッドラック・ファレ
■:オカダ・カズチカ / ■:バッドラック・ファレ
50mを5.94秒で走るオカダ・カズチカ(*日本記録は5.75秒)。
3歳からラグビーを学び、日本の社会人チームでも活躍したキング・ファレ。
両国国技館大会セミファイナルで行われた2人の一騎打ちは、まさに柔と剛のエリートらしい一戦となった。
今年の1・4東京ドーム大会で棚橋に敗れてからというもの、不調が続くオカダ。タッグとシングルを含め、ファレに3連敗。更に愛車コルベットを道路でぶつけ、車庫入れでもサイドミラー破損など災難続き。それはただ単に運転が下手なのでは?という疑問を払拭する器用さを見せたかったが、序盤はファレの当たりの強さに後退。鉄柵超えのボディアタックという新たな攻めも、ファレに受け止められる。
以降も、ラグビー仕込みのタックル、及びスピアー、バッドラック・フォールなどパワーに押された。とはいえ、最終的にはファレのトップロープからのボディプレス(フォーリングココナッツ)をカウント2で返し、ジャーマン、ツームストンパイルドライバー、レインメーカーと美技3連発で白星。
苦戦の上での勝利は、これまでのクールなオカダ像とは異なる。しかし、満足度は高く、ファンの歓声やTV解説席での絶賛がそれを物語っていた。
プロレスにおける名勝負のフォーマットは2つに大別できる。
前回のAJvs飯伏のように「攻防を重ねて行く試合」。もう一つは「攻められ続けて最後に逆転を果たす試合」(古いが猪木vsストロング小林、天龍源一郎vsジャンボ鶴田≪89年6月5日)≫等)だ。
この試合はやや後者寄り。前者の試合の場合、技術が進み過ぎ、浅いファンは入りにくいことがある。その点、後者の場合は無理なく感情移入出来る利点が。
ファレに3連敗していた事実も、より入り込み易い要素となった。“プロレス女子"を含む初見の観客も同様だろう。その点も考慮し、高評価とさせて頂いた。
惜しむらくは、192cm、145kgというファレが、その怪物性を活かし切れてない点。
ツイッターのフォロワー数が8万6千と棚橋に次ぐ人気を誇るファレ。だがその内実は、所属ユニット「バレットクラブ」のTシャツを海外の有名タレントに渡して認知を上げるなど、どこか愛おしい努力が。
クールな仮面を脱ぎ捨て、この日のメイン後にIWGP奪還をぶちあげたオカダは、すんなりその感情と立ち位置が支持された。
一方、ファレはバレットクラブの用心棒、並びに要(かなめ)であることがどれほど理解されているか。恐さをより前面に出したファイトに期待したい。
プロレスライター 鳥浜 英佐