
プロレス通信簿
プロレス通信簿~大晦日格闘技興行見所
年の瀬となった今週は、久しぶりに地上波も復活する「大晦日格闘技興行」をピックアップ!大物同士のカードがそろうだけに、その見所にフォーカスしよう。
先ずは、「RIZIN」にて12年ぶりの格闘技での再戦となる曙vsサップ。以前所属の全日本プロレスで、TARUによる不祥事事件があった際、後楽園ホールでの昼の大会に、早くから記者が大勢詰めかけたことがあった。異常に張りつめた空気の中、たまたま通りがかった曙が記者の前に立ち、一言。「え~、今日は私の引退発表に、こんなに集まって頂き、ありがとうございます(笑)」。瞬間、場が和んだのは言うまでもない。素顔の曙は、「焼肉を食べに行ったら、取り分けてくれる優しい人物」(記者)。12年前の一戦でも、そんな優しさが出てしまった。サップをコーナーに押しこんだ時、一瞬、動きが止まったのだ。後から語るには、「相撲は相手を押しこめばそこで終わり。だから、『あれ?終わらないんだ』と戸惑ってしまった」。直後にパンチを食らい、1R2分58秒、前のめりにうっぷした形でKO負け。アントニオ猪木が、「あの倒れ方は面白い」と評した、伝説の敗退シーンだった。憎めない曙だけに、捲土重来を期したい。なお、曙の今回の再戦にあたっての目標は、「とりあえず1Rもつこと」だそうである……。
大晦日の2日前の開催になるが、同じ「RIZIN」の「桜庭和志vs青木真也」も注目だ。自らの寝技の実力を「世界一」と公言する青木が、「当初、5千万円でのオファーもあった」(関係者)総合格闘技界のレジェンドと雌雄を決する形。それこそ大晦日に、リング上で相手の腕を折ったことのある(*09年・vs廣田瑞人)青木だけに要注意。ただ、桜庭も危ないことにかけては、育ったUWFインターナショナル随一。「みんなで六本木とかに飲みに行くでしょ?すると、泥酔したサク(桜庭)が、黒人を見つけると、『F●CK YOU!』の嵐。『勘弁してくれよ』、と……」(当時、寮長だった垣原賢人。)筆者が聞いた一番凄い話は、後に所属した団体「キングダム」の若手、豊永稔の携帯電話を食べてしまった話だが、酩酊状態だったとはいえ、どうやって食べたのかが、今もって気になる……。垣原さんは、またこうも付け加えてくれた。「ヒクソンとやって、負けないのが桜庭。というのは彼の場合、『常に自分の勝ちを信じるタイプ』なんです。100人が不可能と言っても、桜庭自身だけは勝つことを信じてる。とにかく、心が強いんですね」。いざという時に、退くことを知らない2人だけに、決着は壮絶なものとなる可能性が。心して見届けたい。
「RIZIN」は大晦日、フジテレビで放映予定だが、同時間帯で、これまた往年の「魔裟斗vs山本“KID”徳郁」を放送するのが、TBSの「KYOKUGEN」。前出の曙vsサップが03年、紅白歌合戦を一時上回る瞬間最高視聴率(43.0%)を獲った一戦なら、この魔裟斗vsKIDは、翌04年の瞬間最高視聴率を達成したカード(31.6%)。実はKID、この年の夏には魔裟斗との対戦希望を出していたが、「話題を、アテネ五輪に持ってかれると悔しいから」と、希望を大晦日に変更。見事に功を奏した形となった。KIDは、「晩飯が、丼一杯の大豆なこともあった」という、食べ物から英才教育を施された、通称、“神の子”。その実力あいまって、現在はアメリカのUFCと契約中であり、魔裟斗との一戦は、エキシビジョン扱いなのは残念。(会場名やチケットについて詳しく出てないのはそのため。なお、会場は神奈川県「大さん橋ホール」。)だが、6年ぶりに復帰の魔裟斗のこの言葉に、期待をかけたい。「KIDが神の子なら、俺は努力の子」。衰えぬ王者のプライド復権に期待しよう。
プロレスライター 鳥浜 英佐